国民の敵

あらすじ
ジェームズ・キャグニーがトム・パワーズ役で輝きを放つ。トムはシカゴの不良で、相棒のマット・ドイルと共に悪名高い小悪党、密造業者、冷酷な殺人者へと成り上がり、その人生は制御不能に陥る。ウィリアム・ウェルマンが監督した本作は、トムとマットが生まれた貧困に苦しむ環境を鮮やかに描き出し、彼らの権力への上昇を煽った絶望と希望のなさを浮き彫りにしている。 トムとマットは危険な裏社会を切り抜けながら、敵対するギャング、堕落した警官、そして自分たちの行動がもたらす危険性の増大に対処しなければならない。トムの昇進は彼に富と悪名をもたらすが、同時に家族との対立も生み出す。新たな地位にもかかわらず、トムは自分のルーツに固執し、愛する人々、特に妻のキティとその母親との繋がりを維持しようとする。しかし、ギャング間の抗争の厳しい現実と復讐の必要性が最終的にトムを蝕み、彼と家族の間に溝を深めていく。 映画の初期のシーンでは、トムとマットが新聞を売ったり、小規模な詐欺を働いて何とか生活していた頃の様子が描かれている。自信をつけるにつれて、彼らは活動を拡大し、小規模な詐欺からより実質的な犯罪へと移行していく。トムは生まれつきのリーダーシップと機転の良さで、仲間にとって貴重な存在となり、すぐに街の密造業に割り込むことができるようになる。 しかし、トムの星が昇るにつれて、彼の行動に関連するリスクも高まっていく。彼は、酒場での特に残忍な乱闘など、敵対するギャングとの一連の暴力的な対立に巻き込まれる。トムの暴力性とリスクを冒す姿勢は、彼をシカゴの裏社会で手ごわい存在にするが、同時に警察の注目も集める。トムを長年追跡してきた有能な刑事は、彼に迫り始めており、トムは法の網をかいくぐるためには、さらに狡猾かつ冷酷にならなければならないことを知っている。 トムの帝国が成長するにつれて、彼は家族からますます孤立していく。妻のキティは、トムの状況の現実に苦しみ、彼女と彼女の母親との関係は悪化し始める。トムの妹もまた、兄への忠誠心と彼の行動への憤りの間で板挟みになる。一方、トムの相棒であるマットは、トムの戦術と彼らが永続させてきた暴力にますます幻滅していく。トムとマットの間の緊張は劇的な対立へと発展し、両者にとって壊滅的な結果をもたらす。 映画全体を通して、キャグニーはトム・パワーズ役で卓越した演技を披露する。彼はトムのキャラクターの複雑さを捉え、タフな外見の下にある脆弱さと後悔の念を伝えている。キャグニーと共演者、特にシルヴィア・シドニーとジョーン・ブロンデルとの間の相性は明白であり、彼らの演技は映画に深みとニュアンスを加えている。 『国民の敵』は、1920年代のシカゴのギャング文化を力強く、そして容赦なく描いた作品である。ウェルマンの演出は巧妙で、ドキュメンタリー・スタイルの映像と様式化された撮影術を組み合わせ、ざらざらとした没入感のある雰囲気を作り出している。都市の貧困と不潔さを描き出すこの映画は、美化も粉飾もされておらず、トム・パワーズのようなギャングの台頭を煽った絶望と希望のなさを強調している。 結局のところ、『国民の敵』は暴力の危険性と権力の堕落的な影響についての教訓的な物語である。トム・パワーズの物語は、「ビッグマン」症候群の典型的なケースであり、そこでは野心と地位への欲求が個人を破滅の道へと導く。映画の結末は、破壊的であると同時に忘れがたいものであり、トムの行動の結果と、彼が周囲の人々に与えた修復不可能な損害を痛烈に思い出させる。
レビュー
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